京都地方裁判所 昭和22年(ワ)476号 判決
原告 拓進興業株式会社
被告 時森実一
一、主 文
被告は原告に対して金十九万五千八百四十円及びこれに対する昭和二十二年二月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
原告その余の請求は棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対して金十九万五千八百四十円及びこれに対する昭和二十二年一月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
原告会社は満洲方面よりの引揚者を株主として協力厚生のため設立された商事会社で被告は昆布商を営む商人である。原告会社はその京都営業所主任信本幸保を代理人として京都乾物商組合との間に昆布を京都府における正規の荷受機関である京都府昆布統制組合を通じて売り渡す契約を締結し、原告会社の社員柳川余四郎を青森県に派遣して昆布の買付に従事させたところ青森県新町十九番地佐藤捷二が青森県水産業会(以下青森県水と略称する)本部に藁工品を納入してその見返品として中央水産業会青森駐在所の割当を受け青森県水本部から同下北支部に対する出荷指図に基き同下北支部より受け取るべき昆布があつたので前記柳川余四郎は昭和二十一年十月七日右佐藤との間に該昆布を買い受ける契約を締結した。その売買契約の内容は、売買昆布の数量は一応千五百貫とするが貨車の都合で増減あること、従つて代金総額はこれにより増減すること、受渡は青森県水下北支部より京都府昆布統制組合を通じ荷受人たる京都乾物商組合に送付、受渡すること、代金は一応千五百貫分を即時支払い着荷後全部の精算をすること等であり、原告会社社員柳川余四郎は売主佐藤捷二に対して右約旨による昆布代金千五百貫分を支払つた。そこで佐藤は前記見返品として受くべき昆布について青森県水本部に京都府昆布統制組合を通じて京都乾物商組合に送付方を申請し、県水本部は現品所在地たる同下北支部に対し京都府昆布統制組合宛、本件昆布を出荷することを指図し、その指図書には摘要欄に特に京都乾物商組合を荷受人として指定した。丁度その頃売主佐藤は経済違反の嫌疑を受けて警察に勾引せられる等の事情があつたので、その知人である工藤金助外二名の者に後事を委託して原告会社との取引に関しては下北支部をして至急昆布出荷方手配をなすことを委託した。而して昭和二十一年十一月二十八日下北支部は青森県本田名部駅発「ワム三七九六号貨車に積載し下北一等品昆布二千百七十六貫(以下本件昆布と称す)を京都府昆布統制組合宛出荷したので柳川は右貨車番号等を前記原告会社代理人京都営業所主任信本に通知し、同人は同年十二月九日京都に着荷した本件昆布を受領し、これを京都乾物商組合に引渡そうとしたところ被告より本件昆布の荷受人は自己であると申し出て来たので紛争を生ずることになつた。しかし商品を永く寝かして置くことは双方共に不利益なので、原告会社の代理人たる信本は昭和二十一年十二月十二日被告との間に「ワム三七九六号青森県一等昆布二千百七十六貫は代金十九万五千八百四十円を以て原告会社より被告に譲渡すること、代金は原告にその商品の権利あることの権利確認の証明書と引換に被告より原告に支払うこと」という契約をなし、本件昆布は原告より被告に引き渡され被告においてこれを処分するに至つた。右原被告間の契約は本件昆布の荷受権の譲渡契約であり、原告会社の代理人訴外信本は右契約締結に先立ち訴外京都乾物商組合に事情を述べて諒解を求めその有する荷受権を同組合から譲り受けたのである。そして右契約にある権利確認の証明書引換ということは本件昆布について京都乾物商組合が荷受人であることの権利関係を明確に証明した時というに外ならない。そこで原告会社代理人信本は右約旨による本件昆布についての権利関係を明確にする証明書として青森県水の昭和二十一年十二月十一日付京都府昆布統制組合宛の「本件昆布は京都乾物商組合が荷受人である。」との証明書及び同年十二月三日付売主佐藤より同人と直接交渉した原告会社社員柳川宛の「本件昆布は柳川の指定した荷受人が受け取るべきである」との証明書の作成交付を受け、同年十二月十五日これを被告に呈示して、約旨による代金の支払を求めたが被告はこれに応じなかつた。よつて同日より被告は履行遅滞にあるのであるから原告は売買代金十九万五千八百四十円及びこれに対する昭和二十二年一月一日より完済に至るまで商法所定の年六分の割合による金員の支払を求めるため本訴に及んだものであると述べ、
被告の答弁事実に対して、本件取引当時昆布について荷受統制組合があつてその機関を通じて取引の行われていたことは認める。しかし業者は生産地に至り生産地業者との間に取引をなし売主は買主に対して統制機関の手を通じてこれを引渡し買主が一定の組合手数料を納付してこれが引渡を受け売主はその出荷に当つて荷受人として買主を指定し荷受統制組合にその旨を通知して買主たる荷受人に組合の手数料を支払わせて荷受けする慣習が行われていたから原告会社の本件取引は違法でないと述べ、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、
原告会社がその主張のごとき商事会社で被告が昆布商を営む商人であること。本件昆布は佐藤捷二が青森県水に藁工品を納入してその見返品として中央水産業会青森駐在所より特別配給を受けたもので昭和二十一年十一月二十八日青森県水下北支部より出荷され同年十二月九日京都に到着し原被告間に本件昆布の荷受に関し紛争を生じたが被告において本件昆布を受領したことはいずれも認める。原告がその主張のような経緯でその主張のように本件昆布を訴外佐藤から買い受けたことは知らない。原告主張の証明書呈示の事実は争う。その余の原告主張事実は否認する。もつとも被告は昭和二十三年二月二十七日午前十時の本件口頭弁論期日に原告主張の日原被告間に本件昆布を被告が原告より代金十九万五千八百四十円で譲り受け、その代金は権利関係確認の証明書と引換に支払うという契約の成立したことを認めたが右自白は真実に反し且つ錯誤に基くものであるからこれを取り消す。元来本件昆布は被告において昭和二十一年九月末から十月はじめ頃訴外太田利吉の店員金山健作との間に代金先払で昆布の売買契約を締結してその履行として受領したもので、右太田は訴外佐藤捷二よりこれを買い受け現品は佐藤の指示により同人の代理人工藤金助外二名の者が手配して青森県水下北支部より昭和二十一年十一月二十八日本田名部駅日通扱「ワム三七九六号」貨車便で荷受人を被告、到着駅を京都梅小路駅と指定して送付されたものである。
抗弁として仮に、(一)原被告間に原告主張の本件契約が成立したとしても本件昆布は原告が訴外佐藤より買付けたもので原告の権利に属するものと被告において信じたが為に右契約を締結したのであるが真実は前記の如く被告の権利に属し原告の権利には属しないものであつたのであるから右契約は法律行為の要素に錯誤があり無効である。(二)仮にそうでないとしても原告において右昆布が原告の権利に属する旨被告を欺罔し、これを誤信した被告の意思表示に基き本件契約は成立したのであるから民法第九十六条第一項に基き本訴においてこれを取り消す。(三)のみならず本件契約当時昆布は統制品であり原告会社は水産物統制令にいわゆる統制機関指定出荷機関、指定荷受機関乃至昆布の取扱業者ではなく本件昆布について適法に取引行為をなす資格を有し得ないものであるから本件昆布につき原被告間で締結した本件契約は統制法規に違反して無効であり、従つて本件契約の有効を前提とする原告の本訴請求は失当である。(四)仮に本件契約が有効であり原告が訴外佐藤から本件昆布を買い受けたとしても右売買は統制法規に違反して無効であるから原告は本件昆布の所有権を有効に取得するを得ず、仮に取得したとしてもその引渡を受けていないから右所有権を被告に対抗することができない。従つて本訴請求は失当である。(五)本件取引当時昆布は統制品で原告はその取扱業者でなく、しかも本件昆布は被告を荷受人として出荷されているのであるから原告は被告に対して荷送状に類する証明書及び所轄官庁の許可証明書を以て権利の自己に属することを証明するのでなければ、その権利は確認せられたものと考えられないし、且つこれらと引換でなければ本訴請求に応じられないと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が満洲方面よりの引揚者を株主として協力厚生のために設立された商事会社であり被告が昆布商を営む商人であること。下北一等品昆布二千百七十六貫が昭和二十一年十一月二十八日青森県本田名部駅より発送され同年十二月九日京都に到着したところ、その荷受に関して原被告間に紛争が生じたこと、同年十二月十二日原告代理人訴外信本幸保と被告との間に「本件昆布は代金十九万五千八百四十円で原告会社より被告に譲渡すること、代金は原告にその商品の権利あることの権利確認の証明書と引換に被告より原告に支払うこと」という契約が締結されたことは当事者間に争いがない。(被告は昭和二十三年二月二十七日午前十時の本件口頭弁論期日において原告主張の右原被告間の契約の成立を認め、その後同年三月十九日午前十時の本件口頭弁論期日において右自白は真実に反し、且つ錯誤に出たことを理由としてこれを取り消したが、被告の全立証によるも右自白が真実に反し、且つ錯誤に出たものと認めるに足らないから右自白の取消は許さない。)
而して証人信本幸保(第一、二回)、同柳川余四郎、同中沢勝幸の各証言、証人信本幸保の証言により各原本の存在とその成立が認められ且つ真正に成立したと認められる甲第一乃至第四号証調査嘱託に基く青森県水の回答(甲第七号証及び甲第八号証の一乃至三)同青森県漁業協同組合連合会下北支部の回答(甲第九号証)を綜合すれば昭和二十一年十月初頃原告会社はその代理人信本幸保と訴外京都乾物商組合間の契約により同訴外組合に鉄道貨車一車分の昆布を一貫匁九十円前後で京都府昆布統制組合を通じて納入することになつたので代理人訴外柳川余四郎を青森県に派遣し昆布の買付に当らせた結果、訴外佐藤捷二が藁工品納入の報償物資として青森県水本部より中央水産業会青森駐在所の特別割当に基き受領すべき昆布を買い受けることゝなり、同年十月七日頃原告会社代理人訴外柳川は訴外佐藤との間で、原告を買主として、昆布一千五百貫(数量は集荷積載貨車の都合で増減するも可)を代金は一貫匁金五十六円替として到着後精算し、昆布は青森県水本部の出荷指図書により同下北支部より京都府における指定荷受機関である京都府昆布統制組合を経て京都乾物商組合宛に送荷する旨の売買契約を締結し、訴外佐藤は右売買契約の履行として同年十一月二十八日青森県水本部の指示により同下北支部から京都府昆布統制組合を通じ荷受人を京都乾物商組合として下北一等品昆布二千百七十六貫を「ワム三七九六号」貨車で送荷し右昆布は同年十二月十日頃京都に着荷したので、原告代理人訴外信本が右昆布を受け取りに行つたところ被告が本件昆布は訴外佐藤から訴外金山健作を通じて買い付けたもので被告宛に送られたものであると抗争して譲らず、そのため訴外信本はこれを受領することができなかつた。しかし右昆布は永く寝かせておくことは双方共に不利益となるので右紛争の解決手段として原告は本件昆布の荷受人である訴外京都乾物商組合より本件昆布の措置につき一切の委任を受け、こゝに被告との間に本件契約を締結しその結果即日被告は本件昆布の交付を受けた。よつて原告代理人訴外信本は昭和二十二年一月上旬「本件昆布は京都乾物商組合宛に送荷されたもの」であるという青森県水本部の証明書一通(甲第二号証の原本)、更に被告の要求に応じ同月下旬「原告会社社員柳川余四郎指定の荷受人が本件昆布の荷受人である」という売主佐藤捷二の柳川宛証明書(甲第三号証の原本)各一通を被告に呈示し本件契約に基いて金十九万五千八百四十円の支払を求めたがいずれも拒絶されたことを認めることができる。右各認定を左右するに足る証拠はない。
被告は本件昆布は訴外太田利吉の店員訴外金山を介し、被告が訴外佐藤より買い付けたもので、その履行として訴外佐藤が被告を荷受人として送荷したものであると主張するが被告の全立証によるも前記認定を覆えし、本件昆布が被告を荷受人として送荷されたものと認める心証を惹かない。もつとも成立に争いのない乙第一号証、同第二号証の一、二によれば同年十二月二十二日青森県水下北支部が「本件昆布を被告時森において受け取れ」という電報を被告宛に発信し、更に同月二十四日付で右支部が「本件昆布は京都府昆布荷受統制組合に向け発送したるものにつき然るべく荷受相成度。発送先京都昆布荷受統制組合宛時森殿」と記載した書面を京都府昆布統制組合被告時森宛に発信したことが認められ、従つて本件昆布の荷受人は被告であるように見受けられるが前記甲第九号証によれば、青森県水下北支部は常に青森県水本部の指示によつてのみ出荷の権限を有し本部の指示なく支部単独で送先の変更はできなかつたこと、右乙第一号証の電報及び乙第二号証の一、二の書面は当時下北支部の主事であつた訴外二本柳守雄が下北支部名義で発信したものに過ぎないし、その後昭和二十二年四月五日付右下北支部発京都昆布統制組合宛「昆布荷受方に関する指示書発行方の件」と題する書面により「先に本件昆布の荷受人が被告時森なるが如く指示したのは誤りであるから取り消す」という趣旨を右統制組合に通知し、本件昆布が被告宛に送荷されたものではなく訴外京都乾物商組合宛に送荷されたものであることを確認したことを、うかがい得るから被告の右主張は排斥する。而して原被告間に締結された本件契約の内容である本件昆布の「権利譲渡」とは先に認定した右契約締結の経緯から考えれば本件昆布の荷受権の譲渡を指称するものであり、「権利確認の証明書引換」に代金決済をするというのは契約締結の経緯と証人信本幸保の証言(第二回)に照せば、本件昆布は原告が訴外佐藤より買い付けたもので訴外京都乾物商組合を荷受人として送荷せられたものであることを証明書を以て明確にしたときに右権利譲渡の対価を支払うことを意味するものと解するのが相当である。右判断を左右するに足る証拠はない。
よつて被告の抗弁につき順次判断する。
(一) 被告は前記原被告間の本件契約は被告において本件昆布は原告が買い付けたものでその権利に属すると信じたがために締結したのであるが、真実は被告の権利に属し原告の権利に属しないものであつたのであるから右契約は法律行為の要素に錯誤があつて無効である。
(二) 仮にそうでないとしても、原告において右昆布が原告の権利に属するかの如く被告を欺罔しこれを誤信した被告の意思表示に基いて本件契約は成立したものであるから本訴においてこれを取り消す。と抗弁するが、本件昆布が原告と訴外佐藤との間の売買契約に基いて訴外京都乾物商組合を荷受人として送荷せられたものであり被告のいわゆる「原告の権利に属するもの」であることは既に前記認定の如くであるからこれと相反する前提に立つ被告の右抗弁はいずれも理由がない。
(三) 被告は本件契約当時昆布は統制品であり原告会社は水産物統制令にいわゆる統制機関指定出荷機関乃至昆布の取扱業者ではなく、本件昆布について適法に取引行為をなす資格を有し得ないものであるから、本件昆布につき原被告間で締結した本件契約は統制法規に違反して無効であり、右契約の有効を前提とする原告の本訴請求は失当であると抗弁するので考えて見る。昭和二十一年三月十六日勅令第百四十五号水産物統制令第一条、第二条、第七条、同令に基く昭和二十一年四月十二日京都府令第五十一号京都府水産物統制規則第二条(知事の指定する配給区域……に知事の指定したる種類の水産物を搬入する者又は指定配給区域に於て生産せられたる当該水産物を当該区域に販売する者は……其の搬入又は販売する水産物を知事の指定する荷受機関……以外の者に譲渡し又は販売の委託を為すことを得ず)同日京都府告示第二百号によれば法定の除外事由のない限り青森県から京都府に搬入せられた本件昆布のようなものは指定荷受機関以外の者に譲渡し又は販売の委託をなすことを得ないものであつて、原則として法定の適正なルートを経て流通におくことを要求せられていたものであり、被告は京都府における昆布の指定荷受機関ではない(被告本人の訊問の結果によれば被告は指定荷受機関である京都府昆布統制組合の理事ではあつた)。その被告との間で原告は法定の除外事由を有しないのに(そのことは弁論の全趣旨に照し明かである)訴外佐藤捷二より買い付け、訴外京都乾物商組合宛送荷された本件昆布の荷受権を被告に譲渡するという本件契約を締結したのである。この契約は本件昆布の所有権譲渡又は販売の委託を直接の内容とするものではないが荷受権を被告に移付することは結局のところ実質的に本件昆布の処分権の譲渡を内容とするものである点において前記水産物統制法令に違反する違法の契約であるというの外はない。しかしながら元来統制法規によつて禁止せられている行為は反道義的反倫理的として禁止すべしとされているのではなく一定の時代における特殊の経済的社会的必要より従来自由に放任せられていた行為を制限禁止するにいたつたものでこれに違反する違法行為の効力を論ずるに当つては具体的の行為が如何なる物資についてどのように統制法規に違反するものであるか、その違法行為を認容することが統制法規の追求する「社会的経済的秩序の安定」を破壊し混乱に陥し入れるか否か、換言すれば違法行為がその私法上の効果を認容し得ない程度にまで違法性を帶びるかどうかの観点に立つて判断しなければならない。これを本件について見れば統制の対象である物資は食糧緊急措置令によるものとはいえ、直接同令に掲げられた主要食糧でもなく青果物、魚介類でもなく、又前記京都府水産物統制規則に直接掲げられた鮮魚介でもない。その上本件昆布は他府県から京都府に搬入されたものであり、かような搬入物資の処分につき統制が加えられたのは食糧緊急措置令、前記水産物統制令、前記京都府水産物統制規則を根拠として前記京都府告示により指定せられたのに初まるのであるから、食糧品としての必需の度合、従つて統制による物資の配給確保の要請される度合は比較的低位にあるものというべきである。そうして本件昆布はもともと訴外佐藤が青森県水本部に藁工品を納入したためその報償物資として中央水産業会青森駐在所より特別割当を受けたものであるから同じく統制物資とはいいながら農林大臣の指示割当によつて需給計画の「枠の中」に組み入れて最終消費者に配給することを予定したものではなく、いわばその「枠の外」におかれたものということができる。国家が統制法規を制定して物資の流通を統制するのはその時代の要求に応じて不足物資をできるだけ適正公平に消費者に分配すべく、所轄庁において需要供給計画の「枠」を設定し出荷機関、荷受機関を特定し右各機関を通じて不足物資が生産者より消費者に適正に流れる如く流通機構を確立し、右流通機構以外に物資が流出することによつて国家又は地方公共団体の設定する需給計画が阻害されるのを防ぎ、以て物資需給の不均衡を調整し、国家又は地方公共団体の経済的社会的秩序を安定せしめるを目的としているのである。従つて右農林大臣の指示割当による国家の需給計画の枠内にある統制物資は国家又は地方公共団体の経済的社会的秩序安定のため確保を必要とする不可欠の供給物資という意味において、いかなる障害を排除してもこれをその計画通りに強行実現させる必要があるに比し、右需給計画の枠外にある本件昆布の如きはその「必要性」において遥かに劣るものといわなければならない。その昆布を原告が京都府に搬入したものである。しかも本件昆布は既に認定の如くたまたま京都着荷に際して原被告間で本件昆布買付人がいずれであるかに付争いが起り、商品を永く寝かせておく不利益を回避し、紛争解決の手段として本件昆布を荷引したと主張する被告、指定荷受機関たる京都府昆布統制組合の理事である被告に本件昆布の荷受権を移付するという本件契約を締結したことに想を到すならば、被告が昆布の統制機関でないことの故に帶びる統制法規違反の違法はいまだ本件契約の私法上の効果を否定し無効ならしめる程度にはいたらないものと解するのが妥当である。被告の右抗弁も排斥する。
(四) 次に被告は本件契約が有効に存続するとしても原告は訴外佐藤より本件昆布の所有権を取得しておらず又その引渡を受けていないから本訴請求は失当であると抗弁するが、原告の本訴請求は原告被告間の本件契約に基きその義務履行を求めるものであつて本件昆布の所有権に基くものではなく、且つ本件契約は原告が本件昆布の所有権を有することを要求するものではないから被告の右抗弁は抗弁自体において失当である。
(五) 最後に被告は本件契約にいう権利確認は原告において荷送状に類する証明書及び所轄官庁の許可証明書を以てするを要し、且つこれらの書類と引換でなければ原告の代金請求は失当であると抗弁するが、この点に関する当裁判所の判断は既に示した通りである。被告の右抗弁はこれと異なる見解に立つものであるから採用し得ない。前に認定した通り原告は被告に対し本件契約金十九万五千八百四十円の支払を求めるため青森県水本部の証明書及び訴外佐藤捷二の証明書を昭和二十二年一月下旬までに被告に呈示しており、これによれば本件昆布は原告において訴外佐藤より買い付け訴外京都乾物商組合がその荷受人であることを約旨に従い明確にしたものと認めるのが相当であるから本件契約に基く被告の金銭債務の履行期は到来し、従つて被告は昭和二十二年二月一日以降これにつき遅滞の責を負わなければならない。
されば被告は原告に対し本件契約に基き金十九万五千八百四十円及びこれに対する昭和二十二年二月一日以降完済にいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告の本訴請求はこの限度において理由があると認めうるのでこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 平峯隆 石崎甚八 栗山忍)